受験関連コラム

志望大学・学部を受験科目で決めてよいものなのか?

高校生や浪人生が志望の大学や志望の学部を決めることは簡単ではありません。なぜなら、大学や学部は将来の進路に大きく関わるのに、適切な大学・学部を選ぶには、自分の適正を正確に見極めなければならないからです。

卒業する大学・学部は就職先に大きな影響を与えるので、間違った大学と学部に入ってしまったら、間違った仕事に就くことになりかねません。しかし、受験生のなかには、得意な科目だけで受験できる大学・学部を選ぶ人もいます。そこでこの記事では、受験科目だけで自分の志望大学と志望学部を選んでよいものなのか考えていきます。

受験科目で志望大学・学部を決めるときの注意

結論を先に紹介すると、次の3点に集約されます。
・大学・学部選びの理想は「自分がやりたいこと」を基準にして決めること
・ただ受験科目だけで志望大学・学部を決めることもやむを得ない
・大学・学部の選択は学力や偏差値によって限定されてしまう

文系人間と理系人間

「大学・学部選びの理想は『自分がやりたいこと』を基準にして決めること」については、次の章「志望大学・学部はこのように決めよう」で詳しく解説します。この章では「受験科目だけで志望大学・学部を決めることもやむを得ない」「大学・学部の選択は学力や偏差値によって限定されてしまう」の二つについて解説します。

人間の心や情緒を科学的に扱う文系人間の思考と、自然の出来事を理論とエビデンス(根拠、証拠)で解明する理系人間の思考はまったく異なります。それでも高校1~2年で文系に進むか理系に進むかを決めるときに、数学と理科が嫌いだから文系を選ぶという人は少なくありません。また、数学と理科が他の生徒よりできたから「自分は理系人間である」と思ってしまうことも珍しくありません。

しかし必ずしも、文系思考の人が現国や社会を得意にして、理系思考の人が数学や理科を得意としているわけではありません。なぜなら思考は本人の本質に関わるものであり、高校の教科で教える内容は、学習のコツや受験テクニックであることが多いからです。「本当の学問」は大学で学ぶことになります。

したがって、数学が得意な人でも文系学部に向いている人もいますし、数学が苦手でも理系学部に向いている人はいます。

数学と物理が文系または理系を決める?

ところが数学と物理は特殊な科目です。文系学部を志望する受験生のなかには、「自分は数学と物理の問題は絶対に解けない」と思い込んでいる人がいます。そのため、中学で数学と理科に苦手意識を持った人が、高校1~2年生でもそれを克服できない場合、高3になって理系学部を志望することはかなりリスクが高いといえます。

そのリスクを取るよりは、文系学部に意義をみいだして、自分の思考を文系思考に近づけていくほうが「楽」な場合もあります。数学と物理の得意不得意により、文系か理系かの選択を決めてしまうことは理想の姿ではありませんが、現在の受験環境では、そうせざるを得ないのもしれません。

妥協は決して悪いことではない

さらに大学・学部の選択では、自身の学力や偏差値の範囲内で決めなければならない、という制約があります。どれだけ強く「東大法学部での学びが自分の思考にマッチしている」と思っても、東大法学部が求める学力がなければ東大法学部に入ることはできません。

このように、大学選びと学部選びには「妥協」が必要になります。しかし、妥協は必ずしもネガティブな行動ではありません。妥協せず無理をしてしまうと、不合格や浪人といった結果を招いてしまうかもしれません。

浪人リスクを取ってでも妥協しない道を選ぶか、それとも妥協して受験科目と偏差値で大学・学部を選ぶかは、受験生本人の気持ち次第です。どちらを選んでも、熟慮の末の決断であれば後悔することはないでしょう。

汎用性が高い学部は失敗が少ない

大学・学部を受験科目だけで選ぶことが、必ずしも間違った方法にならないのは、汎用性が高い学部があるからです。汎用性とは、ひとつの用途だけでなく、さまざまなことに広く応用できることをいいます。

例えば、文学部哲学科や宗教学部、工学部建築学科、医学部などは汎用性が低い学部・学科です。なぜなら、これらの学部・学科で学んだことは、その領域と関係しないフィールドでは使用しにくいからです。

一方で、法学部や経済学部、工学部の多くの学科や情報学部などは、汎用性が高い学部・学科です。こうした学部・学科で学んだ人は、どの業界でも働くことができます。したがって、受験科目の都合だけで大学・学部を選んだとしても、それが汎用性の高い学部であれば、そこに進学しても大きな違和感は持たないかもしれません。

学問へのこだわりがある受験生は注意を

ただ、汎用性が低い学部・学科を強く志望していた受験生が、受験科目の関係で他学部に入学してしまった場合、「自分が勉強したかったのはこの学問ではない」と後悔することになるかもしれません。

受験生の段階ですでに学問に対して強いこだわりを持っている人は、受験科目だけで大学・学部を選ばないほうがいいでしょう。しかし、志望の大学・学部に入るためには、苦手な科目に挑戦したり偏差値を上げたりする必要があります。

志望大学・学部はこのように決めよう

志望大学と志望学部を決めるときの理想の方法は次の2点です。
・入学できる大学と学部の選択肢を増やすために偏差値をあげる
・自分がやりたいことを基準にして決める

偏差値や学力、模試の点数が低いなどといった場合、入学できる大学・学部が限られてきます。医者になるには医学部に入らないといけませんが、医学部に入るには英語や数学などの共通科目で高得点を取らなければなりません。また、理科は生物、化学、物理などから2科目を選択しなければなりません。この二つの条件をクリアしないと、いくら医学部を強く志しても入学できません。

また、法学や工学といった伝統的な学問領域でも、一般的に偏差値が高い大学のほうが質の高い講義を行っています。したがって「高度な法学を修めたい」「最先端の工学を学びたい」と希望するのであれば、一生懸命受験勉強をして偏差値を高めなければなりません。

理想は消去法では達成できない

理想の大学・学部に入るには、消去法で考えないほうがよいでしょう。「数学ができないから文系へ」といった考えや、「得意科目だけで受験できるから○○学部へ」といった選択方法は、消去法です。

大学・学部にこだわりがある受験生が消去法で選んでしまうと、「やっぱり受験時代に苦手科目を克服するべきだった」と大きく後悔することになるでしょう。

医学部と法学部が全受験生の理想なわけではない

そして、偏差値が高い人も注意する必要があります。進学校での数学と理科の成績が、ずば抜けていると、周りも自分も医学部を意識し始めます。また、高校の文系コースの成績優秀者は、法学部を志望しがちです。

大学受験界には「医学部は理系のトップ、法学部は文系のトップ」という偏見があり、せっかく高い偏差値を獲得できたのだから、トップ学部に行かないのは「損」と考える風潮があるのです。

医学部に合格するだけの偏差値を持っていても、農業を研究したいのであれば、農学部を目指したほうがよいでしょう。文学を研究したいのであれば、法学部に入れる学力があっても、文学部に行ったほうがよいでしょう。

なぜなら、大学での学問は「肌に合わない」ことがあるからです。法学部では法律の条文を徹底的に分析します。そしてその分析では、自分の考えよりも最高裁判所の判例のほうが重要になります。

法律の条文も文学作品の文章も同じく文字で構成されていますが、両者はまったく異質です。法学思考の人は文学的な解釈が苦手ですし、文学思考の人は法律の解釈が苦手です。法学部は社会のシステムを考察しますが、文学部では人間探求を行います。

苦手かつ好きではない学問を学ぶことは苦痛であり、次第に「無益なこと」と感じ始めるかもしれません。大学を卒業してから別の学部の大学に入り直す人がいるのはそのためです。

大学教授で大学・学部を選んでもよい

また、テレビや新聞などに登場した大学教授の発言に接して感銘を受けた受験生は、その先生がいる大学・学部を目指してもよいでしょう。

ある特定の先生の講義を受けるためだけに大学・学部を選ぶことは、よい選択方法です。なぜなら、大学教授の発言に感銘を受けたということは、その大学教授の研究に興味を持ったことに他ならないからです。そうであれば、4年をかけてその学問を究めることは有意義なことです。

また、大学に入って師事できる先生と出会うことは滅多にありません。1人でも敬愛できる先生をみつけることができれば、それだけでその大学・学部に入った価値があります。義務教育や高校では、児童と生徒は教師を選ぶことはできませんが、大学ではそれが可能です。
「いい先生がたくさんいる大学」に行きましょう。

大学・学部の受験科目を「研究する」

受験科目を優先して大学・学部を選択する場合、受験科目の研究が欠かせません。受験科目を詳しく調べれば、得意な科目だけで志望学部を受験できる大学がみつかるかもしれません。

行きたい大学・学部と行ける大学・学部の受験科目が一致するのが理想

そのためにはまず、偏差値のことは考えず、「自分が行きたい」大学の公式ホームページを開き、募集要項を熟読します。大学によっては受験科目の選択方法が複雑なので、ノートに書き写すなどして、最も効率よく受験できる選択方法を検討してください。

次に、偏差値や学力のことを考えて、「自分が行ける」大学の公式ホームページの募集要項を開き、同じことをしてください。

この受験科目研究をすることで、行きたい大学・学部の受験科目と、行ける大学・学部の受験科目が一致していることを発見できるかもしれません。もし一致すれば、第一志望大学・学部(行きたい大学)の受験勉強がそのまま滑り止め大学・学部(行ける大学)対策にもなります。これは第一志望大学・学部に近付きながら、浪人を回避できる手段にもなります。

早稲田の政経学部は理系が有利?

例えば、早稲田大学の看板学部である政治経済学部は次のような受験科目になっています。

3教科(230点満点)
・国語(内容:国語総合・現代文B・古典B)(配点70点)
・英語(内容:コミュニケーション英語、英語表現)(配点90点)
・地歴または数学(内容:世界史Bまたは日本史Bから選択(配点70点)、または、数学(配点70点))

早稲田の政経学部は文系学部ですが、受験科目をみると理系学部を狙っている受験生のほうが有利になる可能性があります。国語は母国語なので、理系と文系で差がつきにくい教科と考えることができます。しかも理系的な思考を身につけるには国語力が必要なので、理系受験生でも国語が得意な人は少なくありません。
そして、文系と理系の差がさらにつきにくいのが英語です。英語は、ほとんどすべての受験生の必須科目だからです。

このように考えると、早稲田の政経学部受験で文系受験生と理系受験生の差がつくのは「地歴または数学」です。世界史または日本史が得意な文系受験生と、数学が得意な理系受験生が互角に戦えるのが、早稲田の政経学部なのです。

もし、「基本的に工学部を志望しているが、早稲田の政経学部に限っては文系学部でも魅力を感じる」と考えている理系受験生であれば、両者をターゲットにすることは十分可能です。
早稲田だけ政経学部を受験して、他大学では理系学部を受ける、といった選択もできます。

就職も視野に入れよう

受験する大学・学部を選択するとき、卒業後の就職を考えることは重要です。もちろん、東大、京大、一橋大、東京工大、早慶上智に合格すれば、どの学部を卒業しても就職先に困ることはないでしょう。しかし、これらの大学に入るには相当高い偏差値が必要で、誰でも目指せるわけではありません。

そこで狙いたいのが、偏差値の割に就職が特別有利な大学・学部です。
「ビジネスパーソン養成学部」といった要素を持つ大学・学部の学生を採用しようと考える企業は増えています。大学側もそれに応えようと、特に私大では学問を究めさせることよりも、社会の即戦力になる人材の育成に力を入れています。

そのような大学・学部を探して入学すれば、受験勉強でそれほど苦労しなくても、将来自分がしたい仕事に就くことができます。

ある調査で、高校の進路指導の教師に就職支援が手厚い大学を尋ねたところ、1位は明治大学でした。以下の順位は次のとおりです。
2位・金沢工業大学、3位・立命館大学、4位・法政大学、5位・九州工業大学、6位・産業能率大学、7位・福井大学、7位・中央大学、9位・青山学院大学、10位・近畿大学

このうち、国立大学は九州工業大学と福井大学だけです。また、早慶上智はランクインしていませんし、MARCHでも立教は入っていません。さらに金沢大学(石川県)や福井大学(福井県)といった地方大学がトップ10入りしています。この10大学の受験科目を研究すれば、志望大学・学部選びのよい資料になるはずです。

まとめ

志望大学・学部の選択で受験科目を最優先に考えることは、あながち間違った方法とはいえません。得意科目の成績を伸ばすことのほうが、苦手科目を克服するより効率的だからです。
ただ「自分は何を学びたいのか」「将来どのような仕事をしたいのか」についても、このタイミングで検討してみてはいかがでしょうか。

「どうしてもここでなければならない」と感じることができる大学・学部がみつかれば、勉強のモチベーションが一気に高まるはずです。

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