9月入学制が実現したら受験はどうなる?メリット・デメリットを詳説

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9月入学制は、2020年5月ごろから1ヵ月ほど国や産業界、教育の現場などで議論がありましたが、最終的に「見送り」となりました。新型コロナウイルス感染拡大対策の一斉休校や、外出自粛で失った学習時間を取り戻す方法の一つで、実現の可能性が高まっています。今後、議論が復活したり実施されたりすることはあるのでしょうか?

本記事では、今年や来年の受験の影響や、9月入学制のメリット・デメリットについて解説します。

9月入学制導入の今

2020年5月、日本の教育で重要となる9月入学制導入の議論が行われました。2020年3月の全国一斉休校や、外出自粛、緊急事態宣言など、約3ヵ月で空白となった児童生徒の学習進度を取り戻す大きな手立てとして、一気に世論をにぎわせました。

9月入学制とは、1980年代後半からときどき国で議論されて来た秋期入学制への移行問題です。日本は、これまで4月入学制をずっと続けて来ました。桜の花が咲くころに、子供たちはピカピカのランドセルを背負って小学生1年生になる……中学も高校も春入学のイメージがすっかり定着していて、変わることは実感できないかもしれません。

しかし、結論からいうと今回の9月入学制の議論は「見送り」となっています。2020年5月に国会でも議論が盛んに行われて、安倍首相も前向きな姿勢で検討すると発言していたため、早ければ次年度からの9月入学制もありうるかと注目されていたのです。一方で、教育界や産業界、全国の知事などからは反対意見もありました。

結果、自民党内で検討を重ねたものの、「次年度からの導入は早すぎる」といった意見が強いため、首相も慎重な姿勢をとって、結論を見送るかたちとなったのです。

9月入学制になると世の中どう変わる?

9月入学制は、教育制度をだけでなくさまざまな生活習慣を大きく変えてしまう可能性があります。それでも、「導入すべき」という議論が繰り返されている理由は、次のようなメリットがあるからです。

学校や教育への影響

・学校スケジュールの区切りが良い
夏休みは、学校の休暇で一番長く、しかも暑い時期です。1学期と2学期の間に約40日の休暇を挟んでしまうと、せっかく同じ学級になって慣れはじめた児童生徒の気持ちが途絶えてしまったり、授業も長期にわたって空白になったりするなど、合理的な教育を進めるという点でデメリットがあります。

学校の先生たちは、学年が変わるタイミングの春休みの1週間程度でクラス替えや新年度の準備をしています。もし、9月入学制になれば、そうした子供たちのための教育プランを考えたり、新学年のクラスの用意をしたりするのに夏休みの約40日をたっぷりと使えるというわけです。

・グローバル社会になじみやすくなる
海外の学校は9月入学制の国が多い傾向です。子供たちは学年の終わりの夏休みをたっぷりと遊んで、9月からの新年度を新たな気分で迎えます。また、多彩な国々と関係が深くなっている日本は、海外のいろいろな人たちと教育面でも共通の制度になりなじみやすくなります。

グローバル社会が進む中、多様な文化や習慣、考え方を理解して日本人が活躍するために、海外留学はとても大きな役目を持っています。2020年6月時点で日本は4月入学制、海外の多くの国では9月入学制です。そうなると、もし海外で新年度から入学したくても約半年のブランクが空いてしまいます。

また、海外で高校や大学を卒業して、日本に帰国後社会で働く場合も、夏に卒業をすると、進学や就職で次の春まで空白期間が生まれてしまうのです。日本は、今でも新卒採用の傾向が強い国といわれています。せっかく海外で多彩な知識や経験を身につけても、新卒から既卒採用の枠組みに入ってしまって、就職が不利になりやすいことも、デメリットの一つです。

これから世界各国との関係の大切さが強まる中、国際的に共通している教育制度を導入すれば、もっと日本人が世界で活躍しやすいメリットがあります。

子供たちへの影響

・夏休みの過ごし方が多彩になる
9月入学制になると、学年と新学年の間に夏休みが入ります。4月入学から同じ学年のままの気持ちで夏休みを過ごすのと異なり、「学年が一度区切られる」という気持ちのあり方が変わってくるでしょう。「家庭や地域にとけこんで、積極的にコミュニティの中で交流する」「お盆や長期旅行の楽しみ方が変わる」といったことが予想されます。

・移行年の新入生が倍増する
まず、新型コロナウイルスによる一斉休校や外出自粛の流れを受けて、「急いで結論を出すと現場が混乱する」という意見があります。日本教育学会は、「海外の学校と入学時期を合わせたからといっても、海外留学を後押しする効果は大きくない一方で、1年半という期間で準備を済ませるのは難しい」「4月入学制から9月入学制に移行するタイミングの学年の児童生徒がふくらむため、受験や就職に大きな影響を与える」といったことを提言しています。

移行する学年にショックが大きいことは、文部科学省が示した2つの検討案でも明らかになっていました。文部科学省は、9月入学制の導入をする場合、移行する年に入学する子供たちをまとめて9月に新入生にする「一斉移行案」と、移行する年の入学生を複数のグループに分けてちょっとずつ移行していく「段階的移行案」の2案で検討していました。

ただし、大胆なものの一見スムーズに見える「一斉移行案」を採用すると、新入生は移行しない場合より1.4倍にふくらみます。「教室が足りない」「先生が足りない」といった学校での問題はもちろん、子供たちが受験や就職活動の時期を迎えたとき、競争が激化して混乱を招いてしまう可能性が高いでしょう。

行政への影響

ほかにも、学年ごとに区切られているさまざまな制度の対象者が一気に増えてしまいかねません。例えば、児童手当、医療費無料制度など「行政レベルだけでも予算が足りない」「システムの改修が追いつかない」といった課題に直面します。

9月入学制が大学受験に与える影響

9月入学制は、2020年5月の時点では「見送り」となりましたが、新型コロナウイルス感染拡大から議論が再燃したテーマです。そのため、今後第2波、第3波がやってきて再び一斉休校や緊急事態宣言が出された場合、再度「9月入学制を導入すべきではないか」という話が出てくる可能性はあります。

もともと、なぜ日本は4月入学制となっているのでしょうか。4月入学制の歴史的な背景についても確認していきましょう。また、もし今の高校1年生・2年生、浪人生の受験の年に9月入学制が導入された場合、どういったメリットやデメリット、心構えが必要となるのかについても解説します。

なぜ日本は4月入学なの?

日本が4月入学制となっている理由について掘り下げていきましょう。1年を分ける方法としては「カレンダー通りの1月1日~12月31日という暦年で分ける」「それぞれの業界の都合に合わせた年度で分ける」という2つの方法があります。一番わかりやすくて面倒がないのは、1月1日~12月31日のカレンダー通りに年度を設定することでしょう。

例えば、学校の年度は「学校年度」と呼ばれますが、1月1日入学で12月31日卒業にすれば、とてもシンプルです。しかし、これではお正月や年末の忙しい時期と重なってしまい、なにかとあわただしくなってしまいます。しかし、理由はそれだけではありません。

実は農業に関係あるといわれています。四季のある日本では春に種をまき秋に収穫をするという大きな流れがありました。例えば、お米も秋に収穫されます。収穫されたお米をお金に換え税金を納めるには時間がかかるため、12月という区切りでは間に合わず、年度末を3月にしたという説があります。

国や自治体が予算を組むときに使われる年度は「会計年度」ですが、4月1日~翌年3月31日を区切りとしています。国の会計年度と学校年度は、必ず合わせなければいけないわけではありませんが、日本ではこちらに合わせています。

これは、日本は教育制度が始まった明治の時代から続いています。その後、第二次世界大戦でGHQが日本を占領したとき、政治も経済も含めてさまざまな社会制度がアメリカの指導のもとに変更されました。教育では「6・3・3制」もまた、このときにスタートしたシステムです。それでも、明治以来の4月入学制は変わらないまま、今に続いています。

いまの4月入学とのちがい

4月入学制から9月入学制になった場合、大きなちがいは次の通りです。

・新学年が9月から始まって8月で終わる
・夏休みが学年の終わりに来る
・受験シーズンが春から夏に移る
・就職活動は、就職する前年の秋スタートになる

メリット

・夏休みで授業が分断されず、高校3年生の3学期までじっくり学習できる
・受験シーズンが夏休み時期と重なるので、受験勉強の時間が長く取れる
・受験シーズンは夏、就職活動のシーズンは春になるので、先生の進路指導を受けやすくなる
・海外の大学や高校への留学がスムーズになる
・入試日程が今より豊富になるので、受験のチャンスが増える

デメリット

・移行する年の受験や就職の競争が激しくなる
・受験時期が夏のため台風や集中豪雨の心配が生まれる
・卒業時期と国家試験の受験・合格時期がずれるので、待機期間が生まれる場合がある
・「春=桜=卒入学」という季節感が失われる
・待機児童や学童保育の問題が解決されないと小中学校の通学に影響が出る
・家庭の出費のタイミングが変わるので、家計に負担が増える場合がある

このように、入学時期が変わることは、教育を受ける児童生徒の学校生活や受験・就職に大きな影響が及ぶだけではなく、社会全体のシステムや経済や常識まで変えてしまう大変な問題なのです。

今年~来年の受験生や浪人生にとって9月入学制とは

2021年度からの9月入学制の導入は見送りとなったため、2020年度の受験生(2021年春入学)の高校生や浪人生の影響はありません。もともと、9月入学制の議論は大阪の高校3年生のネット署名活動から始まりました。一斉休校によって、学習進度が学校によってまちまちになると受験に大きな差が生まれるのを心配したことが理由です。やがて、ネット署名の運動はメディアでも報道されて、全国の知事の中には秋期入学制を積極的に検討すべきという発言が目立ちました。

少なくとも2021年度の9月入学制はなくなりましたが、議論のきっかけとなった一斉休校や緊急事態宣言による外出自粛による学習の遅れが解決したわけではありません。新型コロナウイルスの第1波は落ち着いて、学校が再開されたものの、学校も受験生もこれまでの授業や学習の遅れを取り戻すのに必死です。

そんな不安な受験生活が続く中、2020年5月29日、文部科学大臣は来年2021年の大学入試の受験日程や出題範囲の見直しを検討していると発表しました。新型コロナウイルスによる一斉休校の影響が長期化して深刻になっているのを踏まえてのことです。

同年5月28日、文部科学省は以下のよう内容について今年の受験生の救済措置について調査を始めています。

・受験日程を全体的に遅らせたらどうなるか
・出題範囲を例年より狭くできるか
・追試験は可能かなど

そのため、調査の結果、見直しとなる可能性もあるでしょう。その場合は、以下のような新型コロナウイルスの影響を考えた受験になる可能性があります。

・毎年2月の国公立の試験が3月以降に延期される
・大学入学共通テストの出題範囲が休校で学習が進まなかった状況をリアルに反映したものになる

調査結果は、2020年6月中に基本的な受験の方針となる「大学入学者選抜実施要項」で公表する考えであることも文部科学大臣は明言しています。今年の受験生や浪人生は、2020年6月中に示される文部科学省の発表内容を注意しておきましょう。

まとめ

4月入学制から9月入学制の議論の中で、今年の受験生にできるだけ不安を解消して、新型コロナウイルスの影響がないようにしていけるか、国レベルでも検討してきました。コロナの影響は、今後も懸念があるため、「どのように社会を変えればいいのか」は誰にもわかりません。

受験シーズンが近づくほど、受験生にとっても「本当に受験ができるのだろうか」「学習の遅れをどこまで取り戻せたのだろうか」と不安になる人も多いでしょう。ただ、国も最大限、大学受験で救済措置を検討中で、大学や高校などと連携しています。まずは、「2020年6月中に発表が予定されている2021年春入試の日程変更」「出題範囲の限定がどこまで行われるのか」について注目しましょう。

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